新春放談クロニクル 2007



  




2007

この年は、ムーン、シュガーベイブについて語った06年、カレンダ
ーについての08年に比較して、作品自体についての回想は少な
いです。
3rdアルバムのゴーゴーナイアガラについて達郎さんは話を振ろう
とするんですが、
大瀧さんの話はこの一年間の心理、思考、行動の振り返りです。

1週目
38局ネット 1.7

ゴーゴーナイアガラ。あいだですよね。ムーンとこれと
カレンダーがね。一つの物なんじゃないですか結局

1曲目 黒木真由美 恋人と呼ばれて

こういうオープニング珍しい。

達:昨今は歌手の人よりも作った人の方が上手かったりする
昔の作曲家の先生と違ってシンガーソングライターが曲提供する
時代が続いた
得てして歌ったアイドルの子よりも作った人の方が

どうしてこのテーマになったかのきっかけがない。新春放談だ
からいいけど。

詠:自分としてはそういう
その頃はめったに曲提供がない。3人だけ
達:すごいやってるような感じがしたけどな
詠:あなただって
達:僕ないですよ。黒木真由美さんぐらい
出ました。紙ジャケで
詠:カヴァーすればいいのに
達:やめてよ勘弁してください
詠:ああ君がってこと?
君が歌うってふうには想定しなかった。歌う気があんのか
達:誰かに歌わせる?
ご無体なこと言ってるなって、相変わらず

ご無体なこと、たまに言いますよね、若手に。テープを逆回転
にしてドラムをこの通り敲け、とか。

達:昨年はトラ1、ゴーゴーナイアガラの30th
去年はトライアングルで終わってゴーゴーナイアガラのゴの字
も出てなかった
これね元々の歌詞カード見てね

物議を呼んだ歌詞カード・偽ライナー問題。達郎さん何か
言いかけて…

詠:聴いたことないでしょ大体が
達:そんなことないですよ。けっこう聴きましたよ

サーカスタウンと同時期でほとんど関わってないはずです。mixi
に10.25について書きましたが、もう一つ付け加えると、サイダー
76を移譲したこともこの期間の特筆ポイントです。

達:コブラツイストとか、こういう世界ってカレンダーとオーヴァー
ラップする
どっちがカレンダーでどっちがゴーゴーナイアガラか
ニコニコ笑ってとか趣味趣味ミュージックとかすごくクロスする、
僕の中で
詠:あいだですよね。ムーンとこれとカレンダーがね
一つの物なんじゃないですか結局
達:厳密に言うとムーンで、これで、カレンダーじゃないですか
その間はタラバンとかシリアさんで。ちょうど真ん中の
詠:真ん中の感じしますよね
達:むしろカレンダーに近いような感じがします

アーティスト大滝詠一のオリジナル・アルバムとしてはそうなん
ですが、ロンバケ以降組としては81年にいっぺんに聴いたんで、
ムーンの次とか、カレンダーの前とか思ったことないんですね。


90年代がまったく憶えてない(笑)その割には62年63年は
相変わらず鮮明に憶えてるんですよね。なんか必要性が
あってそうなってるんじゃないかなって最近。必要ないん
でしょ

達:今年はCMスペシャルで、これとにかくいっぱい出てるから
分かんなくなって
詠:でね去年の夏ぐらいに突然記憶が、記憶力が減衰して
やっぱり、年波が寄ってきたんでしょ
達:具体的には記憶力のどういうところが
詠:90年代がまったく憶えてない(笑)
達:(笑)
詠:抜け落ちてんですよ
達:抜け落ちたんですか
詠:たんじゃないですかね
達:でも50代になると30年前はよく憶えてるけど10年前は
詠:その割には62年63年は相変わらず鮮明に憶えてるんです
よね
なんか必要性があってそうなってるんじゃないかなって最近
必要ないんでしょ
達:観た映画、読んだ本は
詠:去年は何にも。引越しで忙しくて

90年代の映画、本について、だったんですが。

詠:スタジオの改装
達:どうなったんですか
詠:出来ました。機材もまた入れました
30年で初めて自分の家ですよ
達:あそうか、ご自宅はそうですよね
詠:借りもんだった。初めて自分のスタジオなんだ

新築のニュアンスですね。元の家を買い取ってリフォームし
たか。

詠:何にもやらなくなって出来てもしょうがないんだけどね
達:今回はウッディーなやつを延長して
詠:そうではなく、もう倉庫ですね
持ってる物を半分以上捨てました
30年間の物を捨てるのは大変だね
達:この間、池内淳子さんが徹子の部屋で同じようなことを

見るんだ。

詠:簡単に出来そうなんだけどなんかがないと出来ないんだよね
達:33年あそこを動かなかった・・・それは溜まるでしょ
詠:ああいうのは年々やっとくもんだね
達:なんとなくもったいないとか?
詠:逆だね。今や捨てる快感
それも寄って来たんだね
達:煩悩から解き放たれて、解脱という・・・
書籍とか、ビデオの古いのとか
詠:もう捨てました
達:アーカイヴしないんですか
詠:もう面倒くさい
達:キネマ倶楽部は
詠:もうずいぶん。無い物あったら言ってください
達:ぜひ引き取ります

鴛鴦歌合戦の解説を書いてみて、アルバム、ゴーゴーナイアガラ
の制作背景と状況が似てると気付いたと、レココレ(06.10月)で
語ってます。

詠:古い物とか昔の物は捨てないですね
達:ようするに90年代というキーワードで
詠:ゴミも100年すれば遺産ですから

レガシー・・・行政ハコモノは当然、100年無駄じゃない物を目指さ
なきゃいけないと思います。

達:そういうところの審美眼に基づいた捨てる、捨てない
詠:そういう意味では90年代なんかは捨てたんじゃないですか




達:なるほど
だけどレコードリサーチも結局どんどん年月があれするにつれて
78年のはもう要らないわけじゃないですか
詠:僕は逆に72年までのレコードリサーチでいいということに
しました
後のはあるけど、一冊しか持って行っちゃいけないとすると
72年までのでいいんですよ、あとは要らない
たしかに新しいのを買えば前のも入ってるからと言うでしょう
けど

無人島レコード2(07年12月)のアンケートはそうでした。

達:レコードは
詠:アナログはそのままですよ。1枚も捨てなかった
30年間のゴミだから、丸々一年
捨てた物ほど、あれどこ行ったかなとは思うんだけど、まあ
いいやと
新しくスタジオ作ってまたなんか新しくやるのかって
逆ですね。整理をするためにスタジオを作った
達:博物館化ですね

ライブラリーですね。

大瀧さんて、ひと頃は物持ちが、いろーんな物がありましたから

詠:捨てるのが面倒だから置いてあっただけなんです
達:松竹梅ぜんぶありましたからね、一番安い小っちゃいやつ
からタンスみたいなやつまでね

なんのことなんだ?

じゃ1年は整理の一年だったんですね
詠:ほとんど浦島太郎状態ですね。どうなってますか
達:今年はCMスペシャルの後は
詠:多羅尾伴内
シリアさんのは出さないんですか
詠:あれはあれでいいんじゃないですか
達:あれこそリマスターして聴きたいです
詠:あなた用にリマスターして
あのアルバムはあなたがんばってくれてるからね、言えてるな
山下君のレーベルから出しましょうよ
達:リミックスとかしないですか
詠:もういいんじゃないですかあ

達:CMスペシャルはvol.1の30周年
25センチで出したくて30センチにさせられた
詠:今回は79年までの作品。2ndイシューのの3rdイシューです

達:未発表は
詠:何本かあります。あと福生で録ったデモテープがあります

サイダー79とハウスペッパーと、サントリーオールドも初出でした
っけ。

達:CMスペシャルだから入れようと思ったら何十本でも、短い
から
詠:ブツがありゃね
達:だけど、「なんだあかあー」は74?
74なんて何テイクあるか分かんないくらいテイクあるじゃない
ですか
うしろで見てると両手余るぐらいあった

ヒヨコのように目を輝かせてたんでしょう。

詠:ヴァージョンありますね。CMをリミックスしたっていうことで
したね、当時
達:今から考えるとレコーディングのノウハウとか知らなかった
けど、16チャンじゃないですか
あれだけいろんな楽器が入って、違うマルチに4リズムだけ
コピーしてとかどういうやり方なんですか
詠:どうやったんだったか・・・
達:憶えてないのオ?

エ〜!みたいな。70年代なのに。

詠:あのね、そろそろ来てるよ、自信あったんだけどねー
達:記憶力にはね
詠:何度も言うけど、自分にとって必要なくなってるんだよ
達:この先タラバンあってカレンダーもあるじゃないですか
詠:それやるとだんだん…実を言うと忘れるために今リマスター
してるんだよ
達:へー
詠:なんだよ。その「へー」は。本気に聞いてないな
達:尾崎放哉みたいに聞こえたもんで
詠:まあ正しいリアクションのあり方だよね、つき合い長いんだよ
なー。どうもね騙しが通用しない

アーカイヴしとけば万が一ボケても安心です。突然逝っても
「旧知のスタッフ」が見つけられる所に置いとけばいい(毒)
忘れる、捨てる、必要な事は憶えている、残る。捨てる勇気、
決断ができる年齢が来たのでしょうか。


達:この間友人と話してて
ヒップホップの人間とフリージャズの人間で
30年前は同じように日本じゃ同じようなサブカルチャーだった
のに
30年経つとヒップホップはものすごくなっててて、フリージャズは
いまだにサブカルチャーのままだと恨みがましく言って
詠:かえってうらやましいような、そういう狭いエリアがうらやまし


路地裏の一杯飯屋、町工場の特許。

達:よくよく考えると日本のフォークとロックはこのくらいの小さな
エリアで精神的に、文化的に成立してた。経済的にじゃないで
すよ
それ以来30年なんでしょ。その30年の紆余曲折
大瀧さんもくぐって来られて、いろんなところ行っていろんな思い
して来て
72年は残ってるけど90年代は欠落してると
詠:まあ何もやってなかったからね

アミーゴガレージ、普動説、日本ポップス伝が2回。私の天竺、
幸せな結末。けっこうな全盛期ですよ。

達:ほとんど70年代に30年分を働いちゃった
詠:12枚ですよ、3年
達:その代わりに卓とテレコだっていうことなんですか
卓とテレコ欲しさに
詠:やったのよ。そういう時期があってもいいんだ
無謀って言われたよ、当時でも
雑誌の女編集者の人に「見切り発車ですね」って
でも、ここまで来てもいろんなこと含めて見切り発車なんだと
思うよ
達:人生見切り発車

ここ後述します。

詠:いま整理すると言ってるけどこれも見切り発車なんだよ
分かってやってるわけじゃないんですよ、ご承知のとおり
場当たりでやってるだけですよ
達:よーく分かります、よーく分かりますけどあたしは
整理の一年だとはなかなか意外な発言でしたね
詠:切れましたね。世の中との関係性が
達:結局そうなるみたいですね。増やすことをどっかで止めて
厳選して行く、人間にはどれだけの土地が要るか知らないけど

まもなくロケ地探訪のサークル活動が始まります。


あれはお布施のような物なんですよ。だって年間百枚も
出ませんからリイシューなんて

達:いま洋楽なんて言ったらフォーエヴァーヤングシリーズとか
廉価版に紙ジャケにリマスターに
詠:僕の比じゃないでしょ、いっぱい出てるって意味では

確かにです。没後はある意味、規律がある、統制が取れてきた、
と言ってもいい。

詠:ちょっと言っておきたいよね
達:同じ物が3枚も4枚もあって、ライナーも微妙に違うしね
詠:うーん゛人のこと言えないんだよね俺は
達:迷うでしょやっぱり
これから先はどうします?一番良いやつ1枚であとは廃棄する
んですか
詠:エルヴィスは全部買ってますよ
達:それは捨てませんね
詠:エルヴィスは捨ててないですね
達:優先順位はあるんですね。グラッとしてる感じがいいなあ・・・
詠:あのねーあれはお布施のような物なんですよ
だって年間百枚も出ませんからリイシューなんて
各国にエルヴィスの部門があると思うんです
やっぱり出した物が売れないとそこの部署も狭くなるでしょ
その人たちの継続のためのお布施なんですよ

この発言、憶えてませんでした。「お布施」は我々よくリマスター
再発について「お布施」って言ってましたが、これ聞いた人から
始まったんだ。
達郎さんが自分なりの矜持でナイアガラの継承をして行く、それ
を見守り続けるのが、ナイアガラーとしてのわたしからのお布施
です。

達:ヴォランティアですね、ようするに
じゃ大瀧さん、エルヴィスに関しては全世界のカタログ買ってる
んですか

ここ笑える。

詠:アメリカで出た物と、です、年間4万円ぐらい買えばいい
んでしょ
中身っていうよりもそういう聖地に行く切符を買ってるようなもん
ですかね

「聖地に行く切符」。わたし、一年前(2016.1.20)の瑞穂町での
アクションは、聖地に「入る」切符を得るためだったんです。
お墓には行けそうなので、切りの良い日を選んでお参りしよう
と思います。


やる意味がないとか、必要がないとかいうことじゃない
んですけど、自分の中で終わってるような気がする

達:去年は雑誌とか対談とか割と少なかった
詠:ラジオも新春放談以外は1回ぐらいですよ

ビバリーもKトラも飛んでます。

達:ゴーゴーナイアガラって出たから、最初にお聞きしようと思っ
たのは
番組はもうやらないんですか
今はラジオもTVも多極化してるから、どこでもやろうと思えば
べつに資料をあたって口幅ったいことを言わなくても
大瀧さんの場合はたぶん成立すると思うから
人とは違う引っぱり出し方を自然に出来ちゃう
詠:ラジ関でもう終わってんじゃないかな

50分を100回、30分を70何回やってアトランダムに3年かけて
網羅して行く。後の日米ポップス伝よりも「日本の喜劇人/世界
の喜劇人」の影響が直接出てる。

達:僕も最近やらしてもらってるけど大瀧さんのゴーゴーナイア
ガラを聞くと
キャロルキング一つとっても僕なんかとぜんぜん観点が違うもん
そういう選曲する人がどんどん減ってくるからすごく聞きたいな
バリー・グリーニッジは僕には出来ませんから
あくまでこっちは音楽評論家じゃないので自分の恣意的な感情
が入りますから
一般的な教科書的な物じゃなく大瀧さんと僕じゃ違う物になる
詠:でも僕の場合はあの時点で完結してるんですよ
あなたよりも聴き始めたのが2,3年早いので
キャロルキングにしてもバリーマンにしても完成する前から
聴いてるので、そっちのほうが自分としては印象が強い
それ以降の物はあまり聴いてないから次の世代に任せる方
がいい
達:タペストリー以前のキャロルキングという方が大瀧さんは
大きいから
詠:ロコモーションで始まってロコモーションで終わってるんだ
と思う

ロコ・ローション(04)―ソフトバンクのスマップCM (09)の間で
すね。

達:ライターとしてのキャロルキングは本来それじゃないと
タペストリーってアイドル・ライターとしての邪念が入る、そこで
正義化されるっていうか

アイドル物という卑下、秋元康の川の流れのように以前。

詠:ビートルズもリトルチャイルドとかホールドミータイトとか
どうもそこから抜けられないんですよ
達:この間あのジョージマーティンが作ったああいう・・・僕ぜん
ぜん必要性感じないんです
詠:リヴォルバーで難しいと思った人ですからね
だめなんです。それ以降の物はね難しんです、作家の人も
バリーマンは恋はボサノヴァのところで終わってるんです

売れる前に遡って前を知ろうとする、タチだからでしょう。です
から、昔から知ってた如く誰も知らない変なデビュー作をかける
ヘキです。

達:分かります。大作主義がだめなんです、ジムウェッブとか
行くと
詠:まあ自分で出来ないということあるんだけれども
達:初期のフェルドマン、ゴールドスタイン、ガッタラー ああいう
ところを誰も語らなくなっちゃった
詠:70年代こそ、ああいうもん誰も言わなかったでしょ
誰も言わなかったから言う価値があったと思った

アイドル物だけじゃなく、日本の歌謡曲も洋楽と同じテーブルに
乗っけて楽しむ姿勢が。

達:大瀧さんの世代のDJとか音楽評論家があまりいない
かまち潤さんぐらいになったんですかね
達:わりと赤岩和美んとかしゃべりたくない人が多い
詠:木崎さん、えーっと、ポールリビアを・・・八木さんも、もう引退
状態ですか
やっぱり時代のもんですからね音楽は
達:けっきょく日本の文化の特徴として右行くとみんな右で、左
行くと
もうちょっと広く浅くどれでも選ぶっていうのがないから
詠:最近はCDで過去の再発が多いし若い人が聴いて自分たち
に取り入れてるってことはあるんじゃないですか

06年はタワレコ・プロデュースでナイアガラカヴァースペシャル
というのがありましたね。

達:圧倒的に情報が氾濫して何から聴けばいいのかという
詠:入口、けっこう大事なんだよね実はね
どう入るかでけっこう変わってくるから
達:日本は戦後、伝統の継承は不得意だけど
大瀧さんはカリスマ的なところがあるから、大瀧さんの選ぶ曲
のラジオは大きな影響力があったし
詠:あの時点では他に無かったからね
達:今あれしても十分に、十二分に・・・
ご自分がやる気がないならしょうがないけど
詠:まあね、なんかのことで、また変わるかもしれないですよ
達:ああいう人たちがね
詠:どういう人たちが?
達:だから金魚鉢の向こうの人たちが、「大瀧さんやってください
」って来ればどうします?
詠:言ってくれる人いるんですよ、いますよ
「ゴーゴーナイアガラ、どうですか、昼のワイドで」
達:昼のワイド!
達:それだとあまりリスクがないからいいんじゃないですか
詠:考えないこともないですけど

「SHOWAベストヒットコレクション」(98)の型体なんかそれですね。
ワイドの中の1パッケージになりそうです。

詠:べつにやることに逡巡するとか、やるのが怖いとか
やる意味がないとか、必要がないとかいうことじゃないんですけど
自分の中で終わってるような気がする
やって来たことに関しては
時代の必要性とかじゃなく、その時々の自分の必要性でやってた
だけだから
音楽も然りなんだけど、その時点の自分が今これをやるべきだと
思ってやってただけのことなんで
だから、もういいんじゃないのかなって思ってるんですよ

自分の中でやるべきだと思えば、宮崎に飛んだり、命がけで野球
記者もやったわけです。



2週目 1.14


やっぱり作る側には回らなきゃよかった。作る気持ちで
聴いちゃう。それは失敗だった

達:大瀧さん、ミュージシャンになろうと思ったほんとの動機って
詠:ないですよ、これは何度も言ってる
なるつもりもなかったし、いまだにそのつもりもない
達:もしはっぴいえんどってファクターがなかったらどうなってた、
何やってたと思います
詠:ここ何年かずっと映画観てるでしょ

12.14から音響ハウスに行ってます。もう京橋公園に気付いて
るんでしょうか。

詠:たまに映画の関係の人と話をして
儀礼的に「映画を作る気ないのか」と言ってくれて、
儀礼的に聞かれて真面目に答えるのも若いなと思うんですけど
まったくないんですよ
それは、音楽で失敗したからなんだ
やっぱり作る側には回らなきゃよかった
映画も作る側に回ると変わると思うんだよね
作る気持ちで聴いちゃう。それは失敗だった
達:ようするにエンジョイできなくなる
詠:なんとかだからやらないことによって戻らないかなと思って
るんだけど

隠遁の理由は、ポップス史の中の大瀧詠一を語るために、同業
者の土俵から降りたんだ、と以前、推察してました。これももう
一つの理由ですね。

達:僕の40年来の一番仲の良い中学の友達がいて、ブラバンで
ドラム敲いてる前がトロンボーンの人で、彼が僕にビーチボーイ
ズを全部教えた
彼は一番自分の好きなことを職業にしないと医者になった
正月はいつも会うんですけど
詠:それはうらやましい、人をうらやまないんだけど
これだけ作る側から離れて休んでると結構戻って来てるんじゃ
ないかなという気はしますよ

詠:中学の頃にエルヴィスの作家別のリストを作るとか
誰にも頼まれないのに作ってたと同じように
今は60年代のナッシュヴィルのレコーディング・データを作ってる
エヴァリーの翌日がロイオービソンでその翌日がエルヴィスで
・・・日付けの

アメリカンポップス伝パート2をジョニーホートンで始めることを
決めていたのは、これの録音日時が、56年1月11日のナッシュ
ビルで、ビルブラックがベースを弾いている事実からでしょうね。
同じ日にナッシュビルのRCAでエルヴィスが「I was the one」を
録っていた。
そして、ロイオービソンが70位台に入った、パート3の第1夜も
同じ着想です。



詠:誰にも頼まれていないにもかかわらず
そうすると必ず、「DJやってたから、どうですか発表したら」って
いやーそのためではないんですんよ
達:全然啓蒙主義的じゃないですもんね、自分が楽しまなきゃ

そして、功利主義でもない。

詠:楽しむ方向が良い
自分の殻に閉じこもっていて、自分さえ良ければいいのかという
ご批判もあるかも
それとも違うような気がします
達:おたくというよりは凝り性の一人っ子ですからね
詠:発表する機会があったらやりますよ
ポップス伝もべつに発表しようと思ってやってたわけじゃない
ただ、でも自分が作る側に回らなかったら分母分子論みたいな
ことは考えなくて済んでたかもしれない
やるまえからああいう考えはあったけれど、リスナーとして書ける
ことだったけど
やったことにおいてずいぶん変わったな、とは思います
達:分母分子論は今までああいうことを言う人が何でいなかった
の?
詠:いたんです
言い方と提示の仕方が違っただけで
あれみんな分かってることなんです
聞いてみたからわかったよの人見きよしだから
達:言われると目から鱗、コロンブスの卵みたいな
だけど、そういう発言初めて聞いた
自分がミュージシャン活動やってたから、あの発想が出て来た
ということなんですか
詠:そうだと思いますよ
発表する気になったというかね
達:自分の活動とか音楽状況とか作る側から見てて
経験的な問題意識とかそういう物が理論化につながったと
詠:やる側に回って歌う人の気持ちとか、こういう場合にはこう
いう風に歌うとか
こうだったからこうなったとか細かく分かるようになった
・・・んだけど、なんかちょっと細かくとらえすぎて
もっと茫洋に棒大にどうでもいいようにのんびりと聴いていた
かったなって

ゴーゴーナイアガラの植木さんのインタヴューで、植木さんが気に
入ってる曲として「面倒みたよ」が最初はピンと来なかったけど
聴き返してみると、植木さん自身が上手く歌えたと印象に残って
るからだ、と分かったって。歌う立場で考えてみたんでしょうね。


人に聴かそうと思う時にどうしても邪念が入りますよ
歌はねー歌ってて楽しいもんなんですよ基本的に
楽しくないといやなんですねえ

達:僕33年大瀧さんといっしょにいますけど
たくさん芸人、人の前でパフォーマンスする人いますけど
大瀧さんは僕の人生で一番芸人ぽくない
この間、飲み屋があるんですけど、そこで大瀧さんのライヴの
ヴィデオっていうのを誰かが持ち込んで見せてもらったんですよ

http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/664147/557802/77370190

達:1曲目が天然色で
コンディションそんなに悪くないんですよ
詠:新宿の変なビデオ屋に行くとハジの方にあるとかいう話は
昔聞いたことあるけど
達:ほぼ完璧な形で頭から終わりまであってVHSなので時々
ちょっとよれる
詠:ああそうなの、へえー
達:それを見るとじつに見事なライヴなんですよ
非常になんていうかきれいなライヴなんです
あれ初めて見たんで
僕たちがシュガーベイブでバックやってる時は
わりとシャイで自分をさらけ出すのが恥ずかしいっていうか
そういうパフォーマンスに背中見てると見えたから
その時はすごく芸人ぽかった。良い感じだったんですよ
詠:ちょっとはやれるところを見したんじゃないの
1回やったからもういいやってことだと思いますけど
達:79年の12月に郵便貯金で風邪ひいて大変だった
詠:とあるグループの再デビューに関係した
達:その翌年なんですか
詠:でしょうね、いやアルバム発売記念なんじゃないか
達:ユカリがきちっと敲いて良かった
詠:あのころはノってるもんね
達:大瀧さん、持ってない?今度持って来よう



詠:ライヴはね、昔からどうも。ライヴに限らず人まえがどうも
嫌ですね。ずーっと嫌でしたね
なんの因果で人まえでやんなきゃいけないのかなあ
達:歌うのは好きだけど不特定多数の人間の前で歌うのは
詠:それはずうーっと延々どうもだめでした
達:昔はそういう人は引っ張り出されなかったものなんですけど
詠:シンガーソングライターの出だしはみんなそういうもの
達:やっぱり芸能プロダクションに所属してみたらそうじゃない
ですから
詠:人に聴かそうと思う時にどうしても邪念が入りますよ
歌はねー歌ってて楽しいもんなんですよ基本的に
楽しくないといやなんですねえ
達:人に聴かせることが楽しい人がいるんです
詠:いるんだよ、聴きたくないんだけど、聴いてくれっていうのは
いやだね
割合はそっちのほうが6割ぐらいは・・・だからカラオケがあんなに
流行った
達:本当は人の聴かせることと自分が楽しむことがイーブンという
詠:その人が観客を意識しないで楽しく歌ってるのが良いんですよ
達:それが結果的に観客を楽しませるのが最高なんだ
詠:どうもこっちの方を向いて歌ってるんだ、歌が、あれがいや
なんだ
達:見えちゃうから
詠:それは自分自身にも跳ね返る問題でしょ、そこがね
達:それが芸事の地獄だから
詠:歌に限らず芸人、役者の人もそうだけど
その辺でガタガタ言ってるようなのはだめなんだ、つまり
これを一番言いたい
それを誰かに代わって自分自身に裁定を下したの
お前はガタガタ言ってるようじゃ半端だよ、そんなもんじゃだめだ
よと自分に言ったのさ

客に向かって歌う邪念に自覚。無自覚な人が大半でしょう。

達:でも、お客さんは呼ぶもんじゃなくて来るもんだから
来ちゃうんだからしょうがないじゃないですか
詠:いなかったよ人は
中津川でも寝てたしね朝
頼んでも聴いてもらえなかったですからね、あの頃は
最後の大阪城ホールじゃなくてどこだったけか
ゲストで来てもらってダウンタウンを1曲歌ってもらったけど
最後のコンサート、僕は小ホールか中ホールで、上で矢沢さんが
やってました
まああの辺でやめとくのがよかったんですよね
つくずく今となっては思いますよ
退散するのはマッカーサーじゃないけど早い方がいいですよ

78年、第1期最後のコンサートのことのようです。大阪厚生年金
中ホール。

達:歌歌いとしての大瀧さんの地位はきちっと
詠:ありませんよ
達:ありますよ
詠:歌歌いとしてもないですよ、作家としてもないし

ここから1週目の唐突だった冒頭に繋がるか。

達:そんなことありませんよ
寡作だっていうことと違います
何年出してないんだっけ、22年なんだけど
詠:まだ22年しか経ってないんだよね、早く30年経たないかなあ
出さなくなって30年ぐらいやらないと記録にはならないでしょう
達:ギネスブックに載る奴

2014年3月、メディアがどう語るのか、確かめてみたかったでしょう。
2016年3月、「デビュー・アゲン」で歌歌い、作家としての再評価を
我々に示し、てしまいました。

詠:たまたま僕のラベルの低いのは
ビングクロスビーを出すまでもなく、ペリーコモとか上手いよー
ほんっとに上手い
シナトラの天然的な上手さはまた横に置いといて、トニーベネット
は迫力あるしさ
ああいうの聴いてると、だから自分でやるのやんなるもんねえ
達:そんなの要求項目高すぎるからですよ
詠:どうせやんなら
達:どうせやんなら
詠:あれぐらいなりたい
達:やれないならやらないほうがましだって言うんでしょ
どうせその先言うことは分かってんだけど
でも芸人で自分が上手いと思ってる人って一人もいないと思う
んですね
詠:まあね
達:逆に上手いと思ってる人はある程度の所までしか行かない
ひばりさんは本当の意味で自分が上手いとは思ってなかった、
んじゃないかな
詠:僕もそう思う
達:だからああいう歌になるわけで
エルヴィスしかり、優れたシンガーにしろ、プレイヤーにしろ
やっぱりどこか自分の中で不満な所があってね
それを少しでも埋めようとして前へ行く
詠:でもエルヴィスと長嶋は考えてなかったような気がする
もちろん雑念はあるんだけれども
isolateされてるような気がする雑念と自分との間に
最近のイーストウッドにもそれを感じる
達:それがさっきも言った、自分も楽しんで同時に人も楽しい
詠:あれは究極だよね、やるならあれ
達:そこまではなかなかね
詠:なかなかね、ちょっとね欲張りだよね
なんだけどね、生まれ落ちたからには究極の、欲張りたいと
お前の番だと声かけられて、ということじゃないかと思いますよ

リックネルソンのI learned my lesson well.You see ya can't please
everyone so ya got to please yourselfがよく分かると76年10月に
言ってます。その反転です。

達:ふーん。物の整理だけじゃなくて、心の整理も
今年一年の心の整理のあれが出てますね
詠:出てる?はーん無駄じゃなかったんだな一年
達:そういう話のベクトルに進むとは夢にも
詠:判定してもらえるのは山下君だけなんだよ
何十年毎年定期的にやってるから、変化が少ししかないと思う
んだけど
それを判定しにもらいに来てるようなもんだね


今のような行動はなにがしかの現状に応じてるんだと
思いますよ
自分ではそう思ってますけど

達:70年代、カレンダーとかやってる時よく福生に行ってあれして
たでしょ
その頃はものすごくストレス溜まってる感じがした
詠:3年で12枚っていう状況考えてください
達:83年久しぶりに話して、その時は、あーずいぶん落ち着いた
なって、すっごいよく憶えてる
その時の話のテンポが70年代と全然変わった感じが
詠:あの70年代の3年間の方が異常だったんです
あれ戦場でしたよ。鬼軍曹サンダースと化してる時期
だからいちばん前線にいた銀次くんなんか大変だったと思います
実弾が飛んでるところにいて
あれがなければレッツ・オンド・アゲンとかぜったい生まれなかった
わけですからね
結局そういう状況に応じてるとああなる
それで、イーストウッドのインタヴューで
前年ミスティックリバーで何にも賞獲らなかった

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ミスティック・リバー

アメリカは大作家になってもまだコンペティションとかで落とされる
自分は前年は残念な思いをしたから
ああいうこともあるのに制作意欲に関係し
あの時獲らなかったからミリオンダラーベイビーに
もちろん因果関係はないとは思うけど
アメリカの競争社会のああいうところから出て来る強さみたいな
日本的に言うならば、恥をかくのも次への原動力になってる
そこから逃れたりしてると、どうしても獲物が小さくなるような気が
する
日本も占領されてた頃から競争主義を理想として
発売日を同じにするとかで競争になって
賞を獲らなかったとか2位になったとかに
なった人の方が次へのものへのエネルギーに
最近は桃太郎が何人もいるっていう学芸会があるって
僕の子供の時に走れメロスを壇上に並んで全員で一人ひとり
ワンフレーズずつ言っていくっていう学芸会に唖然とした
あれから30なん年も経ってるんだけど
過度な競争社会は良くないのかもしれないけど
ちょっとひ弱になってる
達:確実にそうでしょ。勝ち負けは絶対にありますから

つまづき、もがきがあっての状況。

詠:だから70年代はああいう現状で
ゴーゴーナイアガラにしても誰もやらないから俺がやる
状況がレッツ・オンド・アゲンまで持って行ったので
そういう状況無しに突然にあれだけポッと出されて
「あなたには悩みという物がないのですか」という中学生からの
手紙でトドメさされた
達:大瀧さんていうのはマスより個人
1対1の意見の方が1万人のあれよりも大事っていうのかな
中学生の葉書が大きくなるってのが昔から面白いんだよ
それはワンオヴゼムだから
詠:僕を殺すには刃物は要らぬ、中学生の葉書1枚もありゃいい
あれで完全にやられましたね
「悩みが」ないのですかじゃなくて「悩みというものが」
その「というものが」に負けたんだよ

女性記者の「見切り発車」もそう。くりーむそーだすいサンの
ハガキ、「こんな趣味の音楽は」の喫茶店主。一人の一言に
突き動かされるんですね。

詠:今のような行動はなにがしかの現状に応じてるんだと思いま
すよ
自分ではそう思ってますけど
達:今日いろいろ伺うとたしかに必然的でもあるような気がして
詠:言いくるめられただけだけどね、あなたの場合はいつもの
通りね
達:まあ反論する余地がない
でもあと2年でいよいよ大台なんで
大瀧さんのその年回りのそういう感じはよく僕は理解できますよ、
僕は。世の中はどう思うかは知りませんよ
詠:還暦越えたら突然なんかやるかもしれない、それは分かり
ませんよ
達:いきなり映画監督とかそういうことはないだろうけど
詠:まったく、それ絶対にない
自ら自分の幸せを奪うようなことは絶対しませんよ
達:でも映画監督やりたくてやりたくてしょうがない人ばっかりです
よ、周り
詠:だからその例えとして、僕は歌手にはなりたくもなかったし
作曲家もなりたくなかったし、できればやらない方がよかった
やりたいって人がいたら、いややめといたほうがいいよ
あなたにも言ったはずですけど、プロは大変だよ、食えないよ
達:運命でしょうね
詠:でも、そこを突き抜ける人がやれる人なんですよね
達:僕はドロップアウトだから、他にやることがなかった
いちばん知識があったのが音楽だから他の事やるよりましかな
1回やりたかった事がぶっ壊れてますから高校の時に
詠:天文学者ですか
カミオカンデのノーベル賞の小柴さん
「あいつに物理は無理だろう」先生に言われてカチンと来たと
そっちの方向もあるんですよ
だから、良い良いっていうことだけじゃなく
ガーンって来た時に反転させられるエネルギーがなんかダイナミ
ックな感じがするよね

メンタルタフネスであり、地獄で蜘蛛の糸を掴む強運でもあり。
達郎さんのGOAHEADも反転のきっかけでした。

達:CMスペシャルはまた3.21ですか
タラバンは9.21
レッツ・オンド・アゲンも出るんでしょ
詠:出ますよ来年
達:来年の3.21
詠:3.21はカレンダー
9月がレッツ・オンド・アゲンですね
なんだ、来年で終わりか
達:そしたらロンバケの30周年でしょ
詠:2011年
達:そうするとモラトリアムがあるんだ1年か2年
詠:タツロー・フロム〜
達:そうだそうだ、あれ出すんだ、楽しいな、いよいよ
ジャケット替えましょうね
詠:自分で絵描いたりしないの
達:しませんよ、僕まったく絵ごころないもの
詠:奥さん・・・娘さん描いたパパの絵とかないの?
達:やめてくださいよ
詠:ボブディランにあったような気がするな

http://blog.livedoor.jp/fab777/archives/50397635.html

達:僕、レタリングの時だけ美術5だったんです
詠:じゃ、デザイン
達:ぜひ中山さんに。自分の作品をやっていただいたことない
んで
私すごく憧れてたんで
詠:あ、そう。そうなんだよね、考えてみたら。それは良いアイ
ディアだ
達:ぜひ、よろしくお願いします


福生リマスタリング・スタジオ時代が続きます。
「大瀧詠一的」も08年からスタート。
師匠が忘れようとした、必要の無くなった言葉を、弟子たちは
聞き逃すまいと、拾い集めてるかのようです。

詠:タツロー・フロム〜を楽しみに
その時まではね、がんばんないと








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